そこには、君が





憂鬱な目覚めが私を襲う。


目を開けた瞬間、


夜が来てほしいと思った。


なんの感情が私を襲っているのか


分からないまま支度をする。


朝食を終え、ひと息ついている時。


電話の着信音が鳴った。


相手の名前を見て、


何もかもがクリアになる私。






「もしもし」




『明香ちゃん、おはよう』





名前を呼ばれただけなのに、


飛び跳ねたくなる。


この人は本当に、


何もかもが愛しすぎる。






「どうしたんですか?」





『どうもしないけど』





少しクスって笑って。





『なんか頭によぎったから声聞きたくなって』





そんなことを言った。


最近会えてないからか、


より一層好きさが増した気がする。


この人は卑怯だ。






「もー、会いたいです」




『おー嬉しいこと言うな』





でも残念学校です。


意地悪く言うから、


電話のこっちで頰を膨らます。


分かってる。


学校だってこと。






『今日夜会いに行く』





今の私にその言葉は、


魔法にも似た言葉。


たった一言なのに、


私を奮い立たせるには


匹敵の言葉だ。






「頑張って学校行く」




『また連絡する』





徹平さんは、


いってらっしゃいと言い残し、


電話を切った。


いつもなら寂しいその時間も、


今日はなんだか特別に感じた。






「いってきます」





いつもは言わないのに。


誰もいない家に声をかけ、


スキップでもしそうな勢いで


家を飛び出した。


早く放課後になれ。


そればかりを願って。






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