そこにいた

「またそんな薄着で。」





フワッと頭の上に白いものが目に入る。




その声の主をたどるとこの前の先生が立っている。




私の肩には白衣がかかっている。





暖かくなった背中に、今の今まで体が冷えていたことが分かった。




なぜまたここにいることが分かったのだろうか…。





「そんなに黄昏れて。




若いのにどうした?」





そんな私の疑問も汲み取ろうとしないで話しかける先生。





若いのにどうした?って、若いのにこの体…

若いのにこんなところにいつまでも入院させられて……。



うんざりしてるんだよ……。




「若いのに……





体は年寄りみたいに病弱。」




そんなことより、




短いこの憩いの時間。



 
「……そっとしといてよ。」





体が温まったせいか、気持ちが高ぶったせいか、思っていたことが口から出た。





「そっとしておいたよ。」





「え?」





隣に座ってる先生の顔を見上げると、外を見ながら答えた。





いつから私がここにいることに気づいてたのだろうか……。





「そろそろ声かけようと思って、




僕がここに来て、15分くらいしたかな。それから声をかけてるのに。」






あ、そんなにいたんだ……。知らなかった。




「声かけないと、普通に1時間はここにいるでしょ?」





!?





なんで知ってるの?




だってここ、周りから見えるような構造になってないし。





どこを歩いたらここに私がいることに気づくのだろうか……。




キョロキョロ見渡して不思議がる私。





先生を見ると私をじっと見つめてる。




   

よく見ると、綺麗な瞳……。





くっきり二重の目力に負けて…





こちらから目を逸らす。   







「病弱だから入院してるんだよ。  
退院できるように体を大切にしなくちゃ。」




『病弱』
自分から言うのはいいけど、ストレートに他人から言われるのは堪える……。





そういいながら私の背中に手を回して、立たせようとする。





そんな簡単に立たないんだから!!!






とお尻に力を入れて座るけど、男の人の力には敵わない。





先生の力でスッと腰が浮くと、それ以上の抵抗はできず立ち上がる。





流れにいつも逆らえず、先生に意見もできない。




積み重なるストレス。





「あれ?今日は素直。」





心の中では精一杯反抗してたのに。




「いつも……素直です・・・・・・。」





そう私は素直で純粋な子なんだから…と言い聞かせれば、





「言いたいことを言えないだけでしょ?」




とイラっとする言葉が返ってきた。




一体、この先生はなんなんだろうか……。





立ち上がっても長身の先生は私のはるか頭上に。
キッと先生を見上げるけど、この意気地なし……。





すぐに目を伏せた。





そして今日も部屋に戻ると伝える。





けど、せっかくだから……。
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