年下ワンコを飼ってます
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「あの、嫌じゃないなら、おんぶしますけど…。」
「年下の男の子にそんなことさせられませーん!お世辞にも小柄で華奢とは言えない身体だしー。」

 ふらふらの覚束ない足で今にも転びそうな綾乃は、完全なる酔っぱらいだった。

「…そんなこと、ないと思いますけど。」
「あ、じゃあお腹の肉触る?すごいんだからー。」
「さ、触らないですよ!」
「え、顔真っ赤ー!えへへーもしかして照れちゃったぁ?」

 子供みたいにへらっと笑った綾乃が健人の顔を覗き込んだ。いつの間にか腕に腕が絡められているし、ほのかにいい香りがするしで、色んな意味で沸騰しそうだった。

「健人くん?どったのー?」

 さらに体重を少しかけてくるものだからたまらない。普段は面白くて明るいところもあるけれど、何よりも強い印象だった彼女が、今こうして少し自分に甘えてきている。そんな姿を見て、身体中に電流が走った。このビリビリして、血液がドクドクするような想いをこの時までは本当の意味で知らなかったのだと思う。

「けーんーとーくーん?」
「やっぱりおんぶさせてください。嫌じゃない、…なら。僕じゃ頼りないかもしれないけど、それでも綾乃さんをちゃんと家まで送り届けることはできます。」

 赤い頬、高まりすぎている心臓、そのどちらにも自覚はあった。それでも、真っ直ぐ目の前の人を見据えて言い切った。

「健人…くん?」

 確かに見える、困惑の表情。一瞬で酔いが冷めた空気。喉が鳴ったのは健人の方だった。

「はい、乗ってください。」

 健人はすっと綾乃の前に屈んだ。

「…重いよ?」
「綾乃さんくらいは余裕です。」

 健人の強い意志を感じてくれたのか、綾乃は素直に健人の背中に体重を預けた。ぎゅっと首に回った腕に、熱が高まる。
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