年下ワンコを飼ってます
「重くない?」
「重くないですよ。」
「嘘つき。」
「嘘は嫌いです。」
「わぁ、健人くんにも嫌いなものがあるんだ。」
「ありますよ。」
「意外な事実を知ってしまった…。いっつもふわーっと笑ってる感じなのに。」
「そう…ですかね。そうでもないと思うんですけど。」

 どうにか平常心を保ちながら歩む。綾乃が小さく息を吐く音が健人の耳元で聞こえた。

「…ごめんね、迷惑かけちゃって。でも正直助かる。歩くのしんどかったー。」
「迷惑じゃ…ないですよ。」

 その『ごめんね』を言わせなくてもいい立場になりたいと、強く思った。思った時にはするりと言葉になっていた。

「…綾乃さんのこと、僕、好きなので。」
「え?」
「あっ…え、えっと…。」

 冷汗が出た。さすがにこれには。ただ、この時の声色が焦っていたのは一人だけじゃなかった。

「…ごめん、一瞬勘違いした。ライクの好きね。そうだよね。あーびっくり。ごめんね、あんまり好きとか言われ慣れてないから。」
「ち…違います、けど。」
「は…い…?」
「あ、えっと、違う、こともない、ですけど。あの、ライクの意味の好きもありますけど、でも…それだけじゃないっていうか、いやでも今言うつもりは本当はなくて…。でも、ごめんねより、ありがとうの方が欲しいなって思って…って言ってることがめちゃめちゃですよね…。すみません。」

 こんなに格好のつかない告白があっていいのだろうか。多分よくない。

「勘違いじゃ、ないってこと?」
「…そう、なります。」
「本当に?」
「本当に。」

 背中におぶったまま、立ち尽くす。綾乃がゆっくりと腕を離した。それを合図に、健人も腕をほどいた。綾乃の足が地面につく音がした。
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