今すぐぎゅっと、だきしめて。
ももも、もしかして……
月があたし達を照らして
その淡い光は、目の前の和田君の顔を青白く浮かび上がらせている。
真っ黒な髪が海からの風になびいていて、軽やかに揺れた。
長い前髪の間から、青く光を放つ瞳と視線が絡む。
――…ドキン
「……ヒロ…なの?」
そう声にしても、それはとても頼りなくて
風が空へと連れ去ってしまった。
目の前の彼の耳に届いただろうか?
逆光になった彼の薄い唇が、キュッと持ち上がった。
ほ、ほんとにぃ?
本当にヒロなの……?
「他人の体に入るのなんて初めてだから、すごく変な感じだよ」
「……」
和田君は、手のひらを開いたり閉じたりして見せた。
そして顔を上げて、あたしに笑いかけたんだ。
和田君の姿をしてるけど
でも
その声色やわらかな話し方
仕草でわかるよ?
……ヒロだ。
「……って、え? なに、どうしたんだよ」
「うわぁ~ん! ヒロぉぉおお」
「おわッ!」
目の前が滲んで
もう何も見えない。
あたしは、目の前に現れた「ヒロ」にしがみついた。
ぎゅっと腕を回して
抱きしめる。
強く
強く
あたたかい ヒロを抱きしめた。