今すぐぎゅっと、だきしめて。
「もぉお、隣の人の消しゴム何回もあたしのとこ飛んできてさぁ」
「ぶははは!」
「つか、笑いゴトじゃないし!
なんとか言ってよ、奈々子~」
奈々子の言ったとおり。
駅前のカフェに来ていたあたしの言葉に、大樹はお腹を抱えて笑っていた。
涙目で、目の前の失礼な男を指差して、奈々子に訴える。
奈々子は「ええ~?」なんて言いながら、チョコレートケーキを口に運んでいた。
トンってフォークを持った手で、机をたたきながら
あたしも身を乗り出した。
「最初はいいの。 あたしも笑ってペコリってした!
だけど、それが2回。 3回。
5回も続いたのっ。
途中で試験管が近づいてきて
なんでかあたしまでマークされちゃうし。
終わる頃にはあたしに何度も謝ってたけどさ。
だから、笑えないんだってば」
「ぎゃははは!
ひーっ、く、苦し……ははは」
「あははは」
目に涙を溜めて笑う大樹につられるように、奈々子まで笑い出した。
「ちょっとぉ~。 なんでぇ?」
2人はあれから付き合い始めた。
照れくさそうに、あたしに報告してくれた奈々子の顔。
絶対忘れない。
そんな2人を見て、あたしは力なくイスの背に体を預けた。
ま。
ちゃんと全問できたし。
あたしに出来ることはやった。
ちゃんとアイツも合格してたら、文句言ってやろう。
あたしはそう密かに決意して、目の前の美味しそうなミルフィーユを口に運んだ。