強引上司と過保護な社内恋愛!?
しかも田母神さんは全く俺の事を覚えてなかった、っていうね。

女子の顔はしょっちゅう忘れるけど、忘れられた事は殆どないので正直ショックだった。

「そういやさ、日の出鉄鋼から見積もり上がってきた?」

「はい。しかし、前回同様の発注をした時よりも単価に10%載せて来たのでやり直ししてもらってます」

ふむ、と俺はうなづく。

仕事っぷりはなかなかなものだ。

「うちの見積もりも今週には大岩地所に出したいんだよなあ」

「督促します」

自分のデスクに戻ろうとする田母神さんに班員の小日向さんが「いずみーん」と声をかける。

「此れから河合建築に挨拶行くんだけど手土産は何がいいと思うー?」

知らんがな。

そんなもん自分で決めろよ。

と、言ってやりたいところだけど、田母神さんは立ち止まって数秒視線を宙に泳がせる。

「多根屋のキューブカステラはどうでしょうか。皆さん、頭を使う仕事をされているので甘いものがいいんじゃないですか。河合建設さんは女性スタッフも多いし」

「そうする!ありがとう!いずみん」

小日向さんは母親に行って聞かされた小学生のように素直に助言に従う。

どういたしまして、と言って、田母神さんはふわりと微笑んだ。

仕事中に笑う事は滅多にないのでレアだ。

キツイ表情が一気に和らぐ。

その笑顔はやっぱり8年前と変わらない。

…いや、それ以上にいいかもしれない。
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