シリアルキラーの秘密
 まずは、あの方と私の出会いからお話をしましょうか。

 
 あの方との出会いは特別なものではなく、ただ私のお屋敷の隣に引越してきたことがきっかけでございました。

 そう。あれはとても晴れた日のことでございましたね。


_____1952年。3月。

 橋本家の屋敷の隣に西川というお方の屋敷が建てられました。

 橋本家の主である義和様は大いに西川家を歓迎されておりました。

 橋本家の敷地は山の奥にひっそりと佇む大きな寂しいお屋敷でありましたため、隣にまた自分のような大きな屋敷が建つことに喜びを感じておりました。

 西川家の主である晶様は気品のあるお方で彼の奥様はイギリス人の女性だというのであります。

 海外に目を向けていた義和様は心の底から西川家と深い親交を築いていきたいと思っておりました。
 
 それに、もし西川の家のお子様が男の子であれば自分の娘と婚約を結ばせようと考えているくらい橋本家にとっては大事な隣人でございました。

 
 3月の終わりのことだったでしょうか。

 無事に西川家は引越しを済ませ、義和様の誘いで橋本家の屋敷にて西川家の歓迎パーティが開かれました。

 橋本家からは主の義和様、奥様の結子様、そして二人の愛娘である薫子お嬢様。

 西川家からは主の晶様、奥様のレイラ様、そして未来の西川家の主になるであろう後継者の紫苑様が参加されました。


 そして小一時間でお互い打ち解け合い薫子様と紫苑様もすぐに仲良くおなりになられました。

 薫子様は今年で齢12におなりになり、紫苑様は14におなりになるのでございました。

 年も近く文学的知識のある二人は本の話や学校の話をして楽しんでおりました。


 そんな様子を見ていたレイラ様がポツリとこう仰ったのです。


 「カレンも連れて行きたかったわ。」



 異国人とは思えない流暢で気品のある日本語。

 一瞬ではありましたが薫子様の身体に電気が走ったような衝撃と無数の鳥肌が立ったのでございました。


 しかしそれは束の間、すぐに現実に連れ戻されたような感覚となりました。


 それに大人たちもレイラ様の声にお気づきにならなかったのか、その「カレン」という言葉には一切触れられることはありませんでした。

 薫子様は気にはしたもののレイラ様があまりにも悲しそうな顔をするものですから、それ以上踏み込んではいけないのだと思いそのままにすることにしたのでございました。

 そして、あっという間に時間は過ぎパーティもお開きの時間となりました。

 「今日はとても楽しかったです。

 紫苑様、また私とお話してくださいますか。」

 「えぇ。もちろんですよ。僕も薫子さんとお話できて光栄でした。」

 そんな、薫子様と紫苑様の会話を聞いていた義和様が、

 「二人が結婚してくれれば私は幸せ者だ。

 紫苑くん。これからも薫子を頼むよ。」

「あら、あなたったら。  

 まだまだ先のことを。」

 橋本家にとっては何も申し分のないお家でありました。

が、

 その会話を黙って聞いていた西川御夫妻はあまり乗り気ではないご様子でした。

 
 しかしすぐさま表情を変えて晶様は義和様に

「何かあればまた連絡しましょう。
 
 お互いに。」

これが、橋本家が見た最後の西川家の姿であったのでございました。


 季節は変わり。夏の真っ只かのことです。

 
 私とあの方との出会いは。






 

 


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