without you
持っていた蓋が、私の手から力無く落ちた。
「今日は木戸さんの誕生日か何か・・・」と言っている皆川さんの声が、何となく聞こえる。

「皆川さんっ!」
「はいっ?」
「こ・・・これ、誰が持ってきたんですか」
「誰がって、花屋の人だと思うがなあ。なあ母さん?」
「“フラワーマーケットのイノウエです”って言ってたわよ、確か」
「あ・・そうですか。その人、男性でしたか」
「いや。女の人だったよ。木戸さんくらいの年齢の」と皆川さんが言うと、皆川夫人も同意するように頷いた。

リボンを留めるシールに、「フラワーマーケット」と書いてある。
電話番号と住所、ホームページアドレスも書いてあるから、配達した「イノウエさん」は、「フラワーマーケット」に勤める人なんだろう。

あぁそうだ。カード!
私は添えてあったカードを引っ掴むように取ると、急くように封筒を破った。

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