without you
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「何っ!?・・・故意に消されたんだな。あの野郎に」
「そうです。でもそのときは、誰に消されたのか分からなかった。それくらい、私にとってあいつは、過去の人だったんです」と私は言うと、顔を上向けて、フゥと息を吐いた。

「とにかく、ホントに突然、孤立、というより、まるで私の存在まで消されてしまったような・・・そんな状態になってしまったんです。でもそれは、“突然”じゃなくて、あいつと別れてから半年の間に、あいつは私を陥れる準備を着々と進めていたんだと思います。当時、出版の話も来ていたんですけど、自分の知らない間に、私が編集者さんとの打ち合わせをすっぽかしたということになってしまって。出版の話は、もちろんなくなってしまいました。料理教室も・・・。“私が結婚することになって、相手がアメリカに転勤することになったからついて行く”とか、“私が脚を骨折して動けない状態だ”とか。“私が急に、そしてしばらく料理を教えることができない、スタジオを借りることができない色んな理由”が、生徒さんたちと、スタジオ側に飛び交ってたんです。だから、外見は一応元気な姿でスタジオに来た私を、みんな怪訝な目で見てました。みんなは、私がハメられたと分かっていても、料理研究家として、小さかったかもしれないけど、確かなキャリアを築いていても、それでも、みんなの中に、私に対する不信感が、すでに芽生え始めてて・・・結局、信頼を失って・・・気づいたんです。やっと。こんなことするのは、あいつしか・・・吉見しかいないと。私の知る限り、あいつだけは私の仕事に敵意を持ってた。他に思いつかなかった」

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