without you
番外~幸せのネクタイ~編 
「もう少し顔を上に。そう。そのまま・・・はい、できました」

うん。我ながら上出来だと、心の中で自分を褒めてる私に、純世さんは「引っぱんねえの?」と聞いてきた。

「なんで」
「・・・やっぱおまえ、覚えてねえ」
「え?何が」

ニヤニヤしているだけの純世さんに、私が「教えて」と何度か言うと。
彼は、車の中でその・・・由来を教えてくれた。
つまり、バレンタインデーの前日に、フグ料理を食べに行ったときのことを。

「・・・私、あなたにそんなことをしたり言ったり・・・ごめんなさい」
「おまえは酔ってたんだ」
「でも私、覚えてないくらい飲んでないはずだし・・・」
「疲れが溜まってたんだろ」
「でも・・・」
「そう落ち込むなって。酔ったおまえは、すっげー可愛かったぞ。俺、グッときたし」
「それは、私があなたのネクタイを引っ張ったからでしょ」
「いや。そういう意味も・・まぁ、あるけどよ。俺のここにグッときたって意味だよ」と純世さんは言うと、自分の左胸をポンと叩いた。

そのあたりには、スリーピークスに折られた白麻のポケットチーフがあるので、型を崩さないよう気をつけて、軽めに留めて。

「とにかく、今日は俺もそばにいるし、めでたい席だ。飲んで寝ちまってもいいぞ」
「そんなに飲みません!」

右隣に座っている純世さんを、睨むように見ていた私は、彼の、ニンマリした笑顔に負けて。
微笑みを返した。

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