魂‐soul‐
暗黒森
長い一日を終え、凝った肩を揉みながら湊は帰路についた。
 
「はぁー」
 
朝ほどの気力はとうに失せ消えている。

玄関を開けると午後七時を知らせる鳩時計が湊の帰宅を迎えてくれた。

リビングに入り、藍色のソファに鞄と制服のブレザーを投げた。
 
「皺になるでしょ」
 
母親の沙希がエプロンを着けたま制服をハンガーに掛けた。

湊は沙希が十八のときに生まれた子なので、現在も三十四という若さだ。

スポーツジムに定期的に通っているおかげで、スタイル抜群の母は、湊にとって自慢の一つである。

父親は、表向き、湊が一歳のときに不慮の事故で他界していることになっている。

しかし湊は知っていた。

父親はあの森で行方不明になったのだ。

これを知ってしまったのはほんの偶然。

氷上学園の図書室は本だけでなく、新聞も置いている。

さらには、最近のものだけでなく遠い昭和時代のものまで。

これが面白くて、湊は何度も図書室に足を運んだ。

完全読破を目標に次々読み漁っていたら見つけてしまった。

父親の記事を。

同姓同名だと思いたかった。

しかし、時期が重なる。

そしてなにより、その記事に載っていた顔写真が湊の父であることを物語っていた。

いつしか沙希に見せてもらったアルバムの人物と同一であるのが、なによりの証拠。
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