俺様な狼上司に迫られて!





静かに
2人の息遣いだけが聞こえる。




後ろからは 息を整える彼の
ドキン、ドキン、といった心臓の音が

背中から伝わってくる。






(っ…何、この状況…。)






左手は掴まれたまま握られ

後ろからは右手で逃げ道を塞がれ

真後ろには 彼の胸と私の背中が…密着している。





-------ドキッ、ドキッ…







「は、離してください…!」

「…嫌だ。」

「私もう、帰りますから…!」

「…ダメだ。」






-------っ!





低い部長の声が

耳元でハッキリと響く。



その度に私の心臓は
ドキッ!と大きく鳴った。






「……着替えろなんて言って悪かった。
…あれは、本心じゃねェよ。」

「っ……え…?」






後ろから
そう優しく、でもハッキリとそう告げて
謝ってきた部長に

私は思わず 声を出した。






「…っ…似合ってたんだよ!
俺が想像してたより、ずっと…。」






ヤケクソのような

恥ずかしそうに照れた声で
そうわざと荒々しく私に言う部長。





(何…それ……。)







「今日出掛けるっつったのに、
お前は何か女っ気の無い真面目な服装してくるし…

それに比べて
俺は浮かれた感じでキメて行っちまってよ…!」





シラフなら絶対言わなさそうな
恥ずかしい素直な言葉を

少し拗ねたように次々と発する部長。




もしかしてそれで、今朝は機嫌悪くしてたの…?






「そんで女っぽい服買ったら
彼女だ何だ言って怒るし…。」







と、そう言うと部長は
私の左手を掴んでいた手の力を緩めて

今度は優しく…包むように握ってくる。






-----ドキッ!





それにもまた

私の心臓が大きく鳴る。







「こんな…俺ばっか意識して…
そりゃ小さな意地悪もしたくなんだろうが…。」






部長はそう小さい声で告げると

壁についていた右手を
ゆっくり下ろして

そのまま私の腰に その腕を絡めた。




そしてそのままギュッと

抱きしめる形で、力を入れる。






(っ---------?!)







「……なぁ松岡。」






部長の思わぬ行動で

バク、バク、と激しくなる心臓を止められない私に




少し余裕のなさそうな

色っぽい低い声で…部長が私の名前を呼ぶ。







「どうしたら…俺のこと意識してくれんの?
もっと俺を、男として見ろよ。」






そう言った部長の切なそうな声が

私の耳に
小さく…響いた。






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