飛べ、ペンギン


私は高校デビューを狙ってた。
中学も私は“ぼっち”だったから。
高校では絶対変わろうって思ってたんだ。

初日、気合いをいれて前髪をカールして教室に入った。
オシャレにみえるかもって。
でも、すでにグループができはじめてて男女関係なく仲良く話していた。
焦った。
でもまだ初日だからって、堂々と窓側の自分の席に着いた。
うん、そのまま1週間と3日突入。
話しかけてくれるひともいたけど、コミュニケーション能力が皆無な私は線引きされるようになっていった。
というよくある悲劇のヒロインです、私。


バイバイ、ハイスクールライフ。


そんなことを思ってた時の日向順だった。
男子に高校入って初めて話しかけられた。
みんなしてることが出来て嬉しかった。…それだけ。



放課後、教室の掃除当番に私は呆然とした。
一緒の班に日向順の名前。
班員の名前なんて気にしていなかったのに
話しかけられただけでこうも意識するものなのか。
なにか腑に落ちないが、とりあえずホウキを手に取ろうと掃除ロッカーを開けた。
赤の取っ手にビニールみたいなのが付いた普通のホウキ。
憂鬱な気分を感じながら私はホウキを手に取った。

はやく帰ろう。

「美月も同じ班だったんだな」

後ろから聞こえたその声は…確かに聞き覚えがあった。
ホウキを持った手がふるえ、思わず床に落ちた。

「大丈夫?」

日向順が背後から近づいてくるのを感じ、距離をとる。
その行動に気づいてるのか否か彼は落ちたホウキに手を伸ばしていた。

大きい手。
ワックスでフワッと立ち上げた髪。
目の近くまで伸ばされた前髪。

なんだろ、光って見える。
雲の人って、感じがする。

「脅かしてごめんな」

彼の言葉で我にかえり、緊張と焦りが戻ってきた。
彼が取ってくれたホウキを受けとる。
何て言ったらいいのか、言葉に詰まった。
足も震える。

またこれだ。
無理。
いやだよ。

「あっ、先生見に来てんな…。掃除するか!」

彼は教室の外をチラッと覗いて怪訝な顔をしたかと思うと、掃除ロッカーを開け、自分のホウキを取った。

どうしよう…
離れちゃう…
頑張れ、わたし!

「……ありがとう!」

「えっ!?」

「ホウキ拾ってくれてっ!」

「お、おおっ!」

「あと全然気にしないでください、怖かったわけじゃないので」

私はそこまで言い切ると彼から離れた。
もう、なにも言うこともお互いないはず。


「美月!」

えっ?
思わず振り返る。


「やっとまともに口聞けた」

彼の太陽の笑顔。





雲くるな。


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