③愛しのマイ・フェア・レディ~一夜限りの恋人~
「やあ、見違えたね」

 いつの間にか店内に現れた三鷹社長は、応接ソファから立ち上がって、手を打っていた。

 アワワワ。

 慌ててクルクル回転を止めると、彼はゆったりと微笑んだ。

「はっはっは。気にしなくていい」


 社長は店長にカードを渡すと、さっと会計を済ませた。


 気が付けば夜の7時。

 運転士は、いつの間にか消えている。


「さあ、では行こうか」  

 よく響く重低音で、社長は燈子を促した。

「は、はいっ…わっ!」

 ヨロヨロと足を踏み出した燈子は、つまづいて社長の肩に思わず縋った。

「すす、スミマセンっ」

 耳まで赤く染め、慌てて離れる。

 …元来、惚れっぽい性質なのである。

 デザインよりは楽チンを旨とする燈子は、高いピンヒールなど殆んど履いたことがない。

「姿勢を正して、美しく歩きなさい。…少し猫背だね?」
 
「きゃ…」

 三鷹社長は燈子の背中と額に手をやった。
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