第二秘書は恋に盲目
「ありがとう。

うん、大丈夫。
孝宏さんがいるんだもんね」

自分にも言い聞かせるように、そう言って笑った。暗くて表情はあまりよく見えないけど、孝宏さんは私の手をとった。

「そんなふうに笑ってると、また抱き締めるぞ?」

さっきの優しく力強い言い方とはうって変わって、意地悪度の増した言い方。端正な顔が黒い笑みに染まっていくのが目に浮かぶ…。

「そ、そんなこと言うなんて、余裕だね。緊張してないの?」

「あ?千歳の手術の時よりは、はるかに緊張してる」

それはそれで複雑な心境だよ!

「へー…。全然普通に見えるけど…」

「彼女の親に挨拶するんだぞ?平常心でいられるはずがない」

それ以上は何も言わずに、孝宏さんは玄関を開けた。

緊張してるんだ。今、すっごく大事にされてるなって思えたよ…。

やばい。
また心臓が早く鳴り出した。
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