光のワタシと影の私
鳴宮麗華の日常
 私は、鳴宮麗華(なるみや・れいか)高校一年生。
 華の女子高生とはよく言ったものだけど、私はそんな名前とは裏腹に根暗・ブサイク・存在感無しとよく言われるほど地味な人間。
 歳の離れた姉にはもっと明るく過ごさないと、とは言われているけれどそれが出来たらこんな惨めな生活なんて過ごしていない。
 虐め。
 中学生の頃から知らないうちに虐めの対象にされてきた。
 私の何が悪かったの?
 体育は苦手だけど、その分勉強は誰よりも頑張ってきたつもり。テストをすればいつも上位。だけど、それが逆に虐めがエスカレートしたんだと思う。
 高校に入れば中学のときの同級生とは離れ離れになるからもう虐めには遭わないと思ってきたのに…。そんな考えは甘かったらしい。
 虐められる人間は場所なんて関係無く、どこに行ったって虐めに遭う。
 もう学校もやめちゃおうかな…。
 入学したばかりだけど、今学校をやめて違う高校とか…アルバイトを始めてみるのも良いかもしれない。でも、親は無理にでも学校に行かせようとする。中卒で働こうとするなんて無理があるし、世間からの目というものも気にするのがウチの親だ。
 学校に行っても昨日と同じ、もしくはまた違った方法で虐められる一日が始まる。早く帰りたい。
 家に帰れば虐められる心配も無くなるから。
 そして、誰にも虐められることのない世界、インターネットを楽しむことが出来る。インターネットを通じて多くの友人を作ることが出来た。実際に会ったことはないし、どんな人なのかも分からないけれど、きっと素敵な人。
 そんな友人から最近動画サイトにおいてちょっとした有名人の話しを聞かされた。
 『REIって凄い歌が上手いんだよ!』
 聞いたことのない名前だ。
 だけど友人に勧められた動画サイトで多く視聴されている『REI』の投稿作品をいくつも目にした。試しに一つ動画を目にしてみるとたった30秒という短い曲だけれど素敵な歌声に私はすぐにファンになってしまった。
 もっといろいろな曲を聴いてみたいと思って、『REI』の検索がヒットする動画は端から聴いていった。あまり曲数は多くなかったけれど、どれも素敵なものばかりだ。
 私の新たな救いの場が生まれた。
 『REI』の歌を聴いているときは、虐めから逃れることが出来る。
 アマチュアの人なんだろうか?
 動画サイトでは感想を述べてもそれに応えてくれる確率は低そうだ。
 どうやったらこんな素敵な歌を歌うことが出来るんだろう?フルバージョンの曲を聴いてみたい!CDは売っていないんだろうか?
 通販サイトで『REI』のCDをいくら探しても見つけることが出来なかった。
 だけど、『REI』は確かに存在している所謂新人歌手のような存在で、きちんとした事務所所属されている人物らしい。
 たまたま見つけたブログは『REI』の日常が語られていた。
 凄い歌声の持ち主だったからきっと忙しい発声練習や歌のレッスンでもおこなっているのかも?と思っていたけれど、それらしい記述は一つもなかった。どこにでもいる、ごくごく普通の女子高校生らしい。プロフィールに間違いが無ければ私とそう変わらない年頃の女の子だ。
 確かにプロフィールの写真を見ると私よりも全然可愛い。
 モデルとかやらせてみたら凄く売れる気がする。
 ちょっと躊躇いはあったけれどもっと『REI』のことが知りたくて、『REI』の公式ブログのなかを通じてメッセージを送ってみることにした。
 『初めまして。REIさん、私と名前が似ているので応援したくなりました。動画サイトでREIさんの歌聴きました。とても素敵で同年代の女の子とは思えませんでした。どうすればそんなに素敵な歌を歌えるようになりますか?』
 公式のブログだから感想とか返信とか滅多に返ってこないかもしれない。
 それでも、たった一言でも良いから『REI』とおしゃべりしてみたいと思った。すると、意外なことに『REI』がレスを付けてくれたのだ。
 『こちらこそ初めまして!ワタシと名前が似ているんですか?!偶然ですね!それから曲も聴いてくれてありがとうございます!まだまだ歌は頑張っていかないと…と思っているんですが、これからも応援してくれたら嬉しいです!頑張ります!』
 きちんと私のメッセージに付いてくれたレスが嬉しくて、『REI』からのレスを眺めたまま時間を過ごしてしまった。
 きっと私とは違ってとても明るい子なのかもしれない。だからこそ、素敵な曲を歌うことが出来るんだろう。
 良いなぁ…。
 私も『REI』みたいになれたら良いのになぁ…。
 私の口癖みたいなものになってしまっている一つに○○さんみたいになれたら良いのに…という言葉がある。特に虐めに遭うようになってからは頻繁に口にするようになった。
 親からは呆れられている言葉だけれどいつも姉は真剣に話しを聞いてくれる。
 『そうやって憧れる気持ちは素敵なことだけど、貴女は貴女なんだから。貴女の良さってものをちゃんと大事にしなさいよ?』
 最近『REI』の歌をよく聴くようになってきてから個人の魅力が何なのか分かってきた気がする。姉の言う一人一人の良さというものはきっと『REI』にとっては歌声にあたるのだろう。けれど、私にとってはそれが何なのか分からなかった。
 虐めに遭うことが魅力なのか?と思うこともあったけれど、そんな魅力は無いほうが良い。寧ろ持ちたくない魅力だ。
 あ。
 そろそろ寝る時間になってしまう。
 寝たくない。
 もっと『REI』の曲を聴いて過ごしていたいけれど、寝なきゃいけない。
 明日は学校がある日だ。
 行きたくもない学校だけれど親に無理やり行かされていく学校だ。
 わざわざ虐めに遭いに行くなんて…憂鬱な高校生活ばかり送っているのが私の日常だ。
< 11 / 38 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop