恋するアラン
初めてのマフラー

恋するアラン

「頼む!あたしに……マフラーの編み方を教えろ、コラ」

「……それが、人にものを頼む態度ですか」

12月も終わりの補習の日。あたしが、勇気を出して頼んだ相手は、篠崎裕貴。クラス一目立たなくて、眼鏡坊ちゃんで、いつもクラスの隅っこでマフラーを編んでいる男子だ。
なんと、この篠崎は、手芸部部長。うらやましいことに、手先がものすごく器用で、文化祭には総アランのセーターと、大作のレース編みドイリーを出品していた。その時は、男のくせに変な奴だな、と思っていたが、今は希望の星だ。

「頼むと言ってるだろうが、コラ……いや、頼む、マジで」

「まあ、いいですけど、三日でアラン模様のマフラーを編むなんて、まったくの初心者には無理ですよ」

「いいから教えろや、コラ……いや、お願い……します、コラ」

「はいはい」

篠崎は、通学バッグの中から(手製のあみぐるみのキャラクターがぶら下がっている)、どの色の毛糸がいいんですかといくつもの毛糸を出した。バッグの中に毛糸の常備か。すごいな。

「と、とにかくあの宮田……君が好きな、グレーで頼む、コラ」

「宮田君」というのは、あたしが惚れた男子生徒の名前だ。この「宮田君」の誕生日が正月で、あたしはマフラーをプレゼントして、一緒にバイクを飛ばしてニケツで初詣に行きたかった。「宮田君」は、クラス一の秀才、あたしには縁遠いが、よもやま話で「アラン模様のマフラーを買いたい」と言っているのを聞いて、あたしが編もう、コラ!となったのだ。

「スパルタになりますが、いいですか」

「上等だ、コラ」

そんなわけでレッスンが始まったが、篠崎は鬼と化した。まずは表目と裏目を習ったが、ちょっとでも間違ってごまかして編むと、篠崎の目はそれを見つけ、一気にほどく。あたしは何度も涙目になったが、とにかく編み進んだ。
二日目は、何とかアランの中でも最も簡単という縄編みを習った。縄編み針を使って、目を休めながら、模様を形作っていく。初めて模様が浮き出た時は、感動のあまり篠崎に微笑んでしまった。だが、彼はそんな笑みはどうでもいいとばかりに、

「次!間違えたらほどくのが大変なんだからな!」

と、口調まで変えてあたしを見下ろした。仕方なく、間違えないように慎重に編んでいく。
三日目。あたしたちは深夜営業のファミレスで延々と編み続け、篠崎はあたしをしごき、三日目の夜中にようやく編み上げた。初めて編んだマフラーは、あちこちに穴が開いてズタボロだったものの、篠崎は目を細めて、

「よくやりましたね。筋がいいですよ」

と褒めてくれた。明日は正月である。あたしは、帰宅して寝る時に、マフラーを枕元に置いて、告白がうまくいきますように、と願って眠りについた。
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