恋するアラン

新しい恋のスタート……?

正月の昼間、あたしは「宮田君」の自宅前で待ち伏せした。寒い。あたしは、きれいにラッピングしたマフラーの包みを、首元に当てた。……「宮田君」への思いで温まる気がする。

「じゃあ、行ってきます」

彼が出てきた!あたしは、ドキドキしながら、篠崎のアドバイス通り、語尾に「コラ」をつけないように、彼に話しかけた。

「あ、あの、これ……受け取ってくだ……さい」

「宮田君」は、不思議そうな顔だったが、一応包みは受け取って、その場で開け始めた。

「これは」

「あたしが、初めて……編みまし……た。あの、好き……です」

「残念だけど」

「宮田君」は、冷たく笑った。

「あんた、好みじゃないから。それに、マフラーは彼女が編んでくれたから、いらない」

一世一代の「清水告白」は失敗した。「宮田君」は、おそらく彼女との初詣なのだろう、あたしを置いて携帯で話しながら去っていった。
あたしは、穴だらけのマフラーと取り残された。寒さが余計に身に染みる。

「うっ……」

涙が、零れ落ちた。ぬぐえばぬぐうほど、雫は止まらない。あたしはたまらずその場を立ち去ろうとした。

「尾崎さん」

誰かがあたしを呼んだ。篠崎だった。

「どうして、ここに……」

「心配になって。すみません」

あたしは、大急ぎで手の甲で涙をぬぐい、強がった。

「い、いいんだ、あんなやつなんて。あたしのマフラーが増えたってものさ、コラ」

篠崎は、悲しそうに微笑んだ。

「嘘、ですね」

そして、篠崎はあたしの冷え切った手を取った。

「あなたの真心がわからない男に価値はありません。マフラーの毛糸の一本一本は、思いなんです。だから、とても温かい。僕にはこんなぬくもりのあるマフラーは編めません。人を好きになったことがないから。技巧だけなんです」

あたしの手に、篠崎の手のあたたかさが、ほんのり灯るらんぷのように伝わってきた。
あたしの、下手くそなマフラーを、褒めてくれる人がいた……。
涙は、喜びに変わった。そして、いつのまにか篠崎が、いつも根暗だと思ってきた篠崎が、きらきらと輝いて見えた。

「おい、篠崎。代わりに初詣連れていってやらあ、コラ」

「はいはい。お供いたします」

篠崎は、にっこり笑った。そして、缶入りのおしるこを二本出した。

「これ飲みながら行きましょう」

「気が利くな」

「いえいえ」

あたしたちは、二人並んで歩き出した。失恋の痛手は、少し癒されていた。素直に言えないけれど、あたしは篠崎に感謝していた。

――「異次元カップル」として、あたしたちは校内に名を馳せることになるが、それはまだ先のお話。


(了)
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