Butterfly
私の自宅前に、シルバーの車が到着した。

時刻は深夜1時をまわっている。

けれど我が家は、私を待っているのだろう、部屋の灯りがついていた。


(心配してるよね・・・)


お父さんとお母さんの、第一声はなんだろう。

私もなんて言おうかと、我が家を前に緊張した。

「じゃあ・・・すみません、ありがとうございました」

「ああ。ゆっくり休んで」

「はい」と頷き、シートベルトをガチャリとはずす。

そしてカバンを手にした瞬間に、もうひとつの心配事がふっと頭の中をよぎった。


(・・・聞いてもいいかな)


どうしようかとためらいながら、意を決し、私はそれを口にした。

「あの・・・」

「なに?」

「咲良は・・・羽鳥さんはどうなりましたか?」

私と同様、任意同行された彼女のこと。

私はこうして釈放されたけど、咲良はどうなったのだろう。

ドキドキしながら答えを待つと、市谷さんは前を向いたまま、淡々とした口調で答えた。

「彼女は、もう少し時間がかかると思う」

「・・・そうですか・・・」

そうすると、今日は警察署に泊まることになるのだろう。

悠翔さんに高級時計を贈っていた、咲良の顔を思い出す。


(あんな咲良は初めて見たし、すごくびっくりしたけれど・・・)


すぐにそれを打ち消すように、いつもの柔らかい咲良の笑顔が、私の脳裏に思い浮かんだ。


(絶対に、何もない・・・)


根拠なんてないけれど。

咲良はきっと、悪いことなんてしていない。

疑うような不安な気持ちが、ないと言ったら嘘になるけど。

それでも私は信じようと、自分の胸に言い聞かせた。






< 103 / 186 >

この作品をシェア

pagetop