Butterfly
「・・・はい・・・」

「誤解しないでほしいけど。強要してるわけじゃない。

キミはあれだけ拒んでたんだ。つらい思い出もあるみたいだし。言いたくないのはわかるつもり。

ただこのままだと、キミと岡本は気持ちがもっとすれ違うだろ。

不安だろうけど、岡本は痣のことを打ち明けても、キミへの気持ちは何も変わらないと思う」

真っ直ぐで、市谷さんの真摯な気持ちが伝わった。
 
私は、それがまるで事実であるかのように思えて、ドキリとココロが揺れ動いた。 

「それに。もし岡本がキミを受け入れなかったとしても、キミが落ち込むことじゃない。

あいつがそれだけの男だったっていうだけだ。キミなら、岡本より確実にいい男が現れる」


(あ・・・それ・・・)


「・・・ふふっ・・・」

私は思わず笑ってしまった。

市谷さんは「なに?」と言って、虚をつかれたようにミラー越しの私を見つめた。

「あ、いえ・・・すみません。津島さんも、同じようなこと言っていたから」

「津島も?・・・そっか」

市谷さんが、ふっと笑った。

その後ろから見た横顔は、薄暗い車内でも、とても印象的だった。

「オレと津島が保証するんだ。でも、大丈夫だよ。岡本は」

力強い、とても優しい声音だった。

私は不思議とそんな気がして、「はい」と素直に頷いた。




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