Butterfly
2.忘れたい人
昨日の雲はどこへやら。

週明けの月曜日は、春の近づきを感じさせる温かな陽が差していた。

「3月下旬の陽気です」と、テレビでお天気キャスターが言っていたので、ワンピースの上に厚手のジャケットという、いつもより軽装で私は大学へと行った。

女の子たちで華やぐキャンパス。

弾むような楽し気な声が、あちらこちらから聞こえてくる。

ここでは、暗い顔は似合わない。

目にも耳にも明るい世界に包まれて、私は、彼との悩みを心の奥にしまっておいた。




校舎を歩く道の途中、咲良の後ろ姿を見つけた。

「おはよう!」

駆け寄って声をかけると、振り向いた咲良が顔をぱあっと明るくさせた。

「おはよう、千穂ちゃん」

「おはよ。一限、日本文学史だよね」

「うん」

話しながら、目的の教室へと肩を並べて歩いて行く。

咲良と私は、背丈はちょうど同じくらい。

二人とも、150ちょっとで小さい方だと思うけれど、咲良は線が細いので、私よりも小さく感じる。

「そうだ。コンサート、来てくれてありがとう」

「ううん。こちらこそ。すごくステキだったよ。蒼佑さんも『バイオリン生で聞いたの初めてだ』って、すごく喜んでた」
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