Butterfly
「・・・私・・・」
 
呟いたとき、取調室のドアが開いた。

はっとして目を向けると、市谷さんがドアに手をかけ、蒼佑さんをジロリと睨んだ。

「悪いな。さっき、怒鳴り声みたいなのが聞こえたから」

無表情な市谷さん。

けれど彼の表情は、恐ろしいような凄みがあった。

「そんな風に彼女を責め立てるなら、二人きりにはできないけど」

「・・・・・・すいません」

蒼佑さんが、つらそうな表情で視線をすっと下に落とした。


(・・・違う・・・)


蒼佑さんが、責められることじゃない。

全ては私がまいた種。

それに蒼佑さんが怒るのは、至極当然のことなんだ。

「・・・あの」

意を決し、視線を上げた私は、険しい表情の市谷さんに声をかけた。

「私、胸・・・ちゃんと見せます」

その言葉に、市谷さんはピクリと眉を持ち上げた。

蒼佑さんははっと表情を切り替えて、苦しそうな顔をした。

「千穂ちゃん・・・オレ・・・」

何かを言おうとしてたけど、彼の声は消え入るようで、私はなにも言えなかった。

「・・・わかった。じゃあ、岡本、こっち来い」

市谷さんに呼ばれ、蒼佑さんはガタンと席を立ち上がる。

私のことは一度も見ずに、そのまま退室してしまった。


(あ・・・)


寂しかった。

いつでも私を見てくれたのに。 

いつでも笑顔を向けてくれる彼が、私を見ずに去ってしまった。

それがとても悲しくて。どうしようもないくらい、寂しい気持ちでいっぱいになる。
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