櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





 余裕のない声で放たれる好きだという言葉に、ルミアの心はしびれる様に小さく震える。



 同じ言葉をジンノにも言われた。



 でもあの時はすぐに違うと思ったのだ。



 彼の言う『好き』と、自分が思う『好き』は違うと。







 トモダチとしての好き



 家族としての好き



 同僚としての好き



 恋人としての好き




 


 好きの定義は色々で、明確な違いなんてきっとない。



 小さな頃からずっとバケモノと恐れられ嫌厭されて生きてきたせいで、そばで支えてくれた兄も兄妹同然のイーリスやリュカそしてシェイラのことは彼女にとって全員が同等に特別な存在になっていたから。



 彼らみんなの事が好きで、そこにわずかな違いもなかった。



 だが、ジンノに『好き』だと言われた時、確かに違うと感じた。



(でも...)



 困ったことにシェイラの言う好きと、彼に思う好きの違いが判らないのだ。



 分かれば楽なのに。



 トモダチとして『好き』なのか、ジンノと同じ家族のような『好き』なのか、



 はたまた、これは恋する相手に思う『好き』なのか。






 シェイラに抱きしめられながら、ルミアは想う。






 貴方が私に言う『好き』が



 私が貴方に思う『好き』が




 分からない、



 分からないけれど、私は――









「...好きです」





「―――え、今、なんて...」




 シェイラ聞き返す。


 自分の耳を疑って。




「私も、好きです」



「そ、それは...」



「今もこれがどういう意味の好きかは分からないです。でも」



 ずっと一緒に居たいと思った


 共に過ごす時間がこんなに楽しく、愛おしい


 一番そばに居たくて補佐官になりたいと思い、任務と被ったとはいえ教員免許まで取った


 他の女性とキスするところを見れば、胸がきつく縛られたように苦しくなって、涙を流した
 


 彼の為なら命を捧げられる


 それはけして彼が王子で自分が騎士だからだけじゃない


 きっと彼がいなければ自分は生きていけないからだ


 それほどに大切で、唯一無二の存在であるシェイラ



 これがどういう意味の好きかは分からない。



 それでも確実に言えるのは、一つだけ。





「好きですシェイラさん。他の誰よりも」



「ルミ...!」



「今はこれで、いいですか?」




 不安そうなルミアに対し、シェイラは満面の笑みに包まれて行く。




「十分すぎる!ありがとうルミ!!」



「きゃっ!!」




 シェイラは再び、勢いよく抱きしめた。



 今度はルミアも戸惑いつつシェイラの背に腕を回す。



 その時、



 ドーーン―――と大きな音が街中に響いた。




「わ、」


「始まったか...」




 二人は空を見上げる。



 そこには、特大の花火がフェルダンの夜空を鮮やかに染め上げていた。



 祭りの夜の部、開始の合図である。



 その後も魔力を混ぜて作られた様々な花が祭りの夜を飾り、二人の頭上でキラキラと輝く。



 

 美しいそれを、二人はサクラの木の下で並んで見上げた。



 ここから見る空は本当にいろんな表情をする。



 雪の降る空だったり



 サクラの花びらが舞う月夜だったり



 こうやって花火に彩られる時だってある



 そのたびにいつも隣に居るのはシェイラだった。



 シェイラの黄金色の瞳が光を反射して宝石のように光る。



 美しいその横顔をにルミアは引き寄せられるように顔を近づけた。



 ルミアの動きに気が付いたシェイラが彼女の方を振り向く。



 そして、




「?ルミ?どう、し... ん」



(あ、......)




 彼女の唇は、シェイラの唇に。



 それは奇跡的に、偶然、無意識のうちに起こったキス。



 二人の頭は完全にフリーズし、自覚した瞬間顔は爆発したように真っ赤に染まった。



 だが、その突如として起こった事故のようなキスは、二人の恋を確実に前へと進ませる。





 フェルダンは今日も平和である。





 ***





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