櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





 国際会議は七か国のみだが、舞闘会は違う。


 開催国に脅威がないか一度選考されはするが、他の国も参加可能なのである。


 しかも今回の開催国はフェルダンだ。


 当然のごとく応募が殺到した。



 だから選ばれるか不安だったのだが。



「選ばれた!!これでフェルダンに行けるんだ!!!凄いだろ!」


 誇らしげに届いた証書を頭上に掲げて喜ぶヨハン王子。


 その様子にほっと胸を撫で下ろしながらも、テオドアはどこか不安げな顔をしていた。




 少し話をしてヨハンが部屋を後にする。


 上機嫌な王子を見送ったテオドアは、執務室の扉が閉じると同時に全身の力を抜いて椅子にもたれ掛かった。


 眼鏡を外し、天井を仰いで目頭をグッと押さえる。


 そのタイミングで部屋の扉がコンコンとノックされた。


 顔を出したのは黒の長髪を一つ括った綺麗な顔の男。テオドアの弟、カリスだ。



「テオ兄さん、今いい?」


「ああ…入れよ」



 二人はアイルドール王国の王族の一つ、ゼクレス家の息子。


 兄テオドア・ゼクレスは王子の教育係兼国王軍第二部隊の隊長を務め、弟のカリス・ゼクレスはアイルドール国王軍の軍隊長兼第一部隊の隊長を務めるという、国内でもとても有名な兄弟なのである。


 そんな兄弟が今現在、共通に頭を悩ませている事


 それは




 今は亡き、もう一人の弟


 否


 死んだと思っていた、二人が殺したと思っていた、弟の存在だった。


 その名はマティス。


 笑顔の眩しい明るい弟だった。




 彼は今、フェルダンに居る。


 名を『リュカ』と変え。
 



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