櫻の王子と雪の騎士 Ⅲ





「クソまじめだって…言ってるだろうが!!」


「!?」



 怒気を含んだ声と共に、黒い闇が一か所、晴れる。


 そこから飛び出したのはユウだった。



 一瞬の出来事に呆気にとられるクロウ、その彼の頬にユウの渾身の蹴りがもろに入る。


 そのまま彼の身体は壁に叩きつけられた。



「よっしゃ!やっとまともな攻撃入ったった!!」



 ユウはガッツポーズでそう声を上げる。


 特殊部隊の席ではジンノが「…おっせーよ、まだまだだなクソガキめ。指導不足この上なし」とぼやいており、体術指導を請け負っていたイーリス、ラウルはジンノからそろーっと汗をかきかき目を逸らす。


(絶対目を合わせるなラウル…!殺されるぞ!!)


(ラジャー兄貴!!言われなくても怖くて見れませんん!!!!あ、やば…背中、背中が…!!)


(どうしたラウル!くッ…もう遅かったか…!!!)




 などと言った馬鹿な会話(主に心の声)がテレパシーさながらに彼らの間で交わされる中、ユウとクロウの闘いは続く。




「…ぐ……ッ!何故だ!!己は魔法使いだろう、魔力を吸収されて今も尚動ける!!?」


 先程の一撃が思いのほか効いていたからか、予想に反しユウがピンピンしていたからか、クロウは苦い顔で悔しそうにそう言った。


 対してユウは。


「俺も魔法使いですけどね、言っちゃなんだが魔力を体外に出さないことにかけては大得意なんです。なんせ十五年もそうやって生きてきたもんで」


 ピースして自慢げにそう言う。


「それに何も俺は、あなたを見下して魔力を使わなかった訳じゃないですよ。俺はまだまだ弱い、普通に戦えばあなたにも負けるでしょう。だからこの策を取ったんです。魔力を吸収することが闇の魔法の真価なら、使わない方が勝ち目がある」


「なっ…!!そんな単純な話があるか!!!馬鹿かお前馬鹿なのか!」


 クロウの人格がちょっぴり変わり始めるが気にしない。


「単純でワルーございましたね!!俺は馬鹿だけど、この試合負けるわけにはいかないんです!!」



 次の瞬間、クロウの視界からユウが消える


 気づいたときには、ユウの魔力の乗った力倍増済みの拳がクロウの鳩尾をクリーンヒットしていた。


「ッッッ…グハッ!!!?」


 闇の魔力による防御を失念していたクロウは、その強烈な一発で会場の端まで吹っ飛ぶ。


 観客も他の騎士も、その力の強さに言葉も忘れ愕然としていた。


 

 会場にアナウンスが流れる。


『ドゥンケルハイト王国代表クロウ・ジェイル、戦闘不能により脱落。フェルダン王国代表ユウ・アルシェ、四回戦出場決定!!』




 
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