パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

最初こそ何て答えようか迷ったものの、明るく笑い飛ばした。
重苦しい空気を払拭したかったのもある。

でも、一番はプライドだった。
結婚を考えるまでの彼女を紹介された私の、あっくんに対するささやかなプライド。
私にだって、彼氏のひとりやふたり、すぐに出来るのだと。
それが、あっくんへの想いを隠すためだけのものだとしても。


「良かったじゃないか。今度こそ頑張れよ」


口元にかすかに笑みを浮かべて、あっくんが私の額をピーンと弾く。


「もうっ、痛いじゃない! あっくんこそ、紗枝さんと仲良くしなきゃダメだよ? 彼女を逃したら、次はないに違いないんだから」

「余計なお世話だ。ほら、早く風呂入って寝ないと、肌荒れで彼氏に振られるぞ」

「それこそ、余計なお世話! 私の魅力にメロメロですから、ご心配なく」

「おめでたいヤツだ」


イーっと歯を見せた私に、壁へと寄りかかりあっくんは呆れ顔を向けた。

直後に訪れる、妙な沈黙。
あっくんは、交差した視線を不自然に外した。


「……ね、あっくん……紗枝さんと幸せになってね」


その言葉に、嘘はなかった。

あまりにも突然すぎて、この前はちゃんと言えなかったけれど、大好きなあっくんの幸せは心から願っている。
完全に手の届かないところへ行ってしまえば、今度こそ完全に忘れられるから。
……忘れられる気がするから。


軽く頷いて、あっくんは部屋の扉を閉めた。

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