彼は誰時のブルース



 昼休み、最寄駅のコンビニで買ったカツバーガーを頬張りながら、貴美と七海、2人の顔を盗み見る。


「……………」

 なかなかタイミングが掴めなくて、昼休みになった。

 貴美はすぐに、七海の席へ向かった。

『つむぎ、食べる?』

 行こうか行くまいかオロオロする私に、七海が声をかけてきた。お陰でとりあえずは一緒に昼ご飯を食べている。


 2人とは喧嘩という喧嘩はしたことがない。表立って諍いもしてないのに、顔も合わせてない電話一本で、普段、どんな風に話していたんだか、忘れてしまった。



「…あ」


 七海が声を出した。期待して七海を見た。七海の焼きそばパンの中身が机に少し飛び出てしまっていた。


「ふふ…どんまい、七海」


 小さくそれに反応する貴美。ようやく会話が始まった。七海は床に落とした焼きそばをティッシュで拭く。

「そういや貴美、来週の土曜。母さんが会いたいって」

「あー、ママ言ってた」

「私も行きたいなー、久しぶりに」


 会話に入る隙がない。こうなったら私はもう黙るしかない。

 貴美と七海は幼馴染だ。親同士が仲良くて、小さい頃からしょっちゅう遊んでいたらしい。高校も2人は1年生の時、同じクラスだ。

 七海は、私が入っていけない会話を重ねる。

「あ、さっき久々宇野に会った」

 思わず体が反応し、太ももが机に当たる。

「おー、どうなの?最近彼は」

「学級委員、3年になってもやってるって話してたからウケるよね」

 疎外感を感じるのは、今日に始まったことではない。ただ今日ほど、この場から離れたいと思った日はなかった。

 七海は、1年の時、宇野とそれなりに親しかった、らしい。ともに学級委員をしていたようだ。時々、会話に出てくる宇野の話題に、なんとも言えなかったことが何度もある。
 結局、畳み掛けるように話題が移り、2人の話に入ることができなかった。

 昼休みの5分前の予鈴がなった。

 貴美がトイレ、とクラスから出て行く。




「紬、貴美と喧嘩した?」

 七海が私の方を見ずに、机を直しながら聞いた。

 七海はいつも直球に聞く。気が強い。ハッキリした七海と違って私は優柔不断で、事なかれ主義だ。



「いや…なんて言えば、ううん」

「なんでも良いけど、貴美は気が弱いしズルズル引きずるんだから、あんたから謝ったら?」


「ハハ…私もズルズル引きずるタイプなんだけども」


 そう遠慮がちに言ったら、意外そうに七海は眉を少し動かした。

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