恋風吹く春、朔月に眠る君


昨日はとても楽しかった。ずっと気分が落ち込んでいたから、わいわい騒ぐのがなんだか懐かしいくらいの気持ちだった。それはもう、次の日が学校だってことも忘れるくらいに。


「はあ、なんで学校始まっちゃったの......」


度重なる大きな出来事に忘れていたけど、今日は始業式だ。まだまだ春休み気分だった身体は重い。その上にまた夢を見ていたようで疲れが取れた気がしない。昨日の朝はあまり記憶がないから覚えてないけど、多分、昨日も夢を見た。かれこれ1週間くらい。相変わらず何の夢だったかは思い出せない。

まだ寝たいと全身で告げている身体の動きはいつもより遅い。それも学校が始まるということは、今日からまた部活三昧の日々だ。部活は楽しいけど、始まる前は憂鬱というかなんというか。


「今日の天気は晴れ。ですが、明日の夜からは雨が降り、数日続きそうです」


リビングのテレビはお馴染みの朝の情報番組が流れている。天気予報のお姉さんともなんだか久しぶりだ。あんまり嬉しくないけど。


「双葉、早くしないと電車乗り遅れるわよ」


お母さんの言葉で我に帰る。時計を見ると、普段ならもう家を出る時間になっていた。


「やばっ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」


鞄を持って廊下を駆ける。途中にあった洗面所でまだ用意をしている楓と目が合った。『行ってきます』と声を掛けると『行ってらっしゃい』の声が追いかけてきた。

楓は家から一番近い学校を選んだ。だから、まだ家を出る時間じゃない。私が電車で通う学校を選んだとは言え、やっぱりこういう時は羨ましく思う。朝の5分10分ってすっごく貴重だ。

慌ただしく玄関を出ても、朔良はいなかった。朝の弱い朔良のことを考えると、まあ、当然だ。寧ろ、この春休みが異常だった。でも、こういうところでまた悲しくなってしまう。


「早く仲直りしたいなあ......」


誰にも届かない願いをひとりごちて駅へ向かう。学校は一緒だけれど、クラスが違えばなかなか会うことはない。1年生の時は違うクラスだった。今年も一緒じゃなければ、学校で会うことは殆どないだろう。今日は部活があるから、それが終わって帰ってからじゃないと、朔良とゆっくり話す時間はなさそうだ。


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