恋風吹く春、朔月に眠る君


「......夢だ」

「夢?」


何のことか分からない朔良は訝しむ。それを余所に夢で言われた言葉が私の思考を駆け巡る。

嗚呼、ずっと教えてくれていたんだ。私はどうしてずっと思い出せなかったんだろう。毎日夢を見て、そこで何か言われているような気がしていたのに、大事なことをこんな時になって思い出すなんて。


「どうしよう。私、間に合わないかもしれない......!」

「落ち着いて。どうしたの?」


立ち上がり混乱する私を、朔良は肩に手を置いて制する。こんな時に幽霊なんて言っても信じてもらえないかもしれないなんて言ってられなかった。


「最近、その歌を送られた女の子の幽霊に会って、友達になったの。その子が私を元気づけてくれて、朔良と話をした方がいいって、背中を押してくれたの! なのに、なのに、私、木花も同じように困ってたのに、何もしてあげられなくて、もしかしたら木花はもう.....!」


最後まで言う前に朔良は私の手を掴んだ。咄嗟のことに驚いた私は何もできないまま引き摺られるように朔良と部屋を出る。


「ちょっと、何処へ行くの?」

「その木花って子のとこ。学校にいるんでしょ?」

「そんな、学校なんて今は開いてないよ」

「分かってるよ。でも、門を登れば中庭には入れる」

「そんなことして見つかったら......!」

「じゃあ、このままお別れしていいの?」


階段の途中で歩みを止めた朔良が振り返る。私はハッとして息をのんだ。


「そんなのいや」

「じゃあ、行こう」


朔良はもう一度階段を降り始めて、私もそれに続いた。廊下に出ると、『先に玄関行ってて』と言われて、玄関へ向かった。朔良はリビングの方に用事があるようだ。


「母さん、ちょっと双葉とコンビニまで出かけてくる」

「いいけど、夜から雨降るって言ってたから早く帰ってきた方がいいわよ」

「分かった。じゃあ、行ってくる」


朔良が戻ってきて、一緒に家を出た。夜の空気はまだまだ冬みたいだ。一度家に帰って私服に着替えてコートも持ってきておいて良かった。朔良と駅へと走って向かう。只管駅へ向かうことに専念していて、お互い何も喋らなかった。


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