キミはまぼろしの婚約者

 * * *


夏休みに入り、適当に課題をやったり、たまに窪田達と遊んだりと、だらだらした日々を過ごしていた。

小夜からの手紙は、まだ見ていない。

見たい気持ちよりも、目を逸らしていたい気持ちの方が強くて……ほんと、どうしようもない。


明後日は彼女の誕生日だが、誰と何をして過ごすんだろう。

自分の部屋のベッドに横になってぼんやり考えていると、ドアがコンコンとノックされた。

「はい?」と返事をすると、開かれたそこからある人が姿を現す。


「よぉ、律」


笑顔で入ってきたのは、兄である越だ。

俺の体調を気にして、社会人になった今も一緒に暮らしている。


「あれ、今日仕事休み?」

「代休になった。だからすっかり出無精(でぶしょう)になっちまった弟を誘い出してやろうかと思ってさ」


テーブルの上に置いたままのマンガを持ち上げながら、越はいたずらっぽく口角を上げた。

が、ベッドから動こうとしない俺に小さなため息をつく。


「家にこもってると身体なまるぞ」

「……外暑い」

「夏なんだから当たり前だ」


脱力する越。

以前の俺なら、今の自分に向かって兄貴と同じことを言っているだろうな。

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