キミはまぼろしの婚約者
改めてそんなふうに言ってくれると、なんだかむずがゆい。

でも……今日まで、本当にいろんなことがあった。


専門学校での生活に苦労したり、なかなか就職先が決まらなくて焦ったり。

悩んで、落ち込む律の姿もたくさん見てきた。

私なりに支えてきたつもりだけど、彼もそれを感じてくれていたんだね……。


「彼女に負担を掛けてしまっている分、俺にできることは全部してあげたい。家事の手伝いとか、デートとか、彼女が喜ぶことは全部。
今できることのひとつは、小夜と家族になることです」


トクン、と胸が優しい音を奏でた。

私は負担だなんて思っていないけど、律の気持ちはとっても嬉しい。

お父さんとお母さんの表情も、どんどん優しくなっていく。

すると、律はほんの一瞬、表情に影を落とす。


「……将来、俺は動けなくなる。でも家族を作れたら、その時が来ても、彼女の笑顔くらいは守れるんじゃないかって、気付きました」


すぐに目線を上げた彼の、凛とした横顔を見て、私は泣きそうになった。

あなたは、どこまで私のことを考えてくれているの──。

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