キミはまぼろしの婚約者
嫌な予感を抱きながら、ゆっくり文を追った私は……


“律のことは、忘れてほしいんだ”


思いもよらない一言に、目の前が真っ暗になる感覚がした。

……どうして? 何でそんなことを言うの?

律のことを忘れるなんて、できるわけないじゃん……!


“小夜ちゃんに嫌な想いをさせてしまうこと、本当に申し訳なく思ってる。本当にごめんね”


その後には、きっと上辺ではないだろう謝罪の言葉だけで、理由は何一つ書かれていなかった。

手が震えて、えっちゃんの文字がゆらゆらと歪んでいく。


“これから小夜ちゃんには素敵な出逢いがたくさん待ってるから。幸せになってください”


最後を締めくくられたその一言で、律との未来は打ち切られてしまったように思えて……私はその場にしゃがみ込んで泣き崩れた。


いったいどういうことなのか、まったくわからない。

でも確かなのは、私が律と会おうとしても、きっともう会ってはくれないということ。

何度も思い描いていたふたりの未来が、呆気なく散ってしまったのだ。

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