キミはまぼろしの婚約者
あっ、と思った瞬間、律はカレーパンに伸ばしていた手を隣にスライドさせた。

そして手にしたのは、こちらも美味しいあんバタサンド。

ぽかんとする私に、彼はにこりと微笑んで、軽く手を振って去っていったわけだけど……この行動も違和感がある。


だって、昔から律はあんこが苦手なはずだから。

もしかしたら克服したのかもしれないけど、私にはカレーパンを譲ってくれたように思えて仕方ないんだ。

私の好物を律もよく知っていたから、それでじゃないかって。


「……それもいまいち説得力ねぇな」


真剣に話したっていうのに、キョウの間延びした声でムッとする私。


「律は、私が甘い菓子パンよりカレーパンが好きだってことを知ってたんだよ」

「“太るからやめとけ”って忠告だったのかもしれないじゃん」

「だとしたら律はすっごい気が利くよねー! 誰かさんとは大違い」

「だから、お前は肉付いた方が美味そうなんだって」

「ヘンタイ!」


また言い合いになり、よくわからない方向へ話が逸れていく私達。

見兼ねたありさが、「はい、夫婦漫才終了ー」と、間に入って止めてくれた。

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