社内恋愛症候群~クールな上司と焦れ甘カンケイ~
しかし、リビングに戻っても落ち着かずに意味もなくウロウロと歩き回ってしまう。そんな私のもとに、チョコが申し訳なさそうな顔をして近づいてきた。
「もう、チョコったら。いつもはちゃんと出来るのに……どうして今日に限って」
顔の高さまで抱き上げて、鼻先を近づけるとペロッと舐められた。
これはまったく反省してないな。
「きっと、あのイケメンぶりに驚いたのよねー。チョコ」
ワンッ!
「もう、そんなことチョコにわかるはずないでしょう! え、お母さんなに作ってるの? 私、食事なら終わらせたよ」
「アンタのじゃないわよ、なに言ってるの? 課長さんをそのまま帰すわけにはいかないでしょう?」
テーブルを見ると、父がとっておきだといった日本酒が乗っており、つまみらしきものがすでに何品か準備されていた。
「でも、もう遅いし引き止めたら迷惑だよ」
ただの部下の家で、こんな形でお酒を勧められたらさぞかし断りにくいだろう。金曜日の夜に部下の家で拘束されるなどと迷惑な話だ。
「でも、まだお父さん染み抜きが終わってないみたいなのよ」
「だったら、明日でもクリーニングに出して——」
「それで汚れが取れなかったらどうするの? すごく高そうなスーツだったわよ。今、染み抜きしておいて、帰り際にクリーニング代をお渡しするの。わかった?」
「はい」
母の言うことが正しい。今できる応急処置をしておくべきだということも納得できた。