ドラマ好きの何が悪い
「どうして私がぎっくり腰になったか三輪くんに言わないといけない理由がある?」

私はパソコンを打ちながら無表情で言った。

「理由なんてないですけど、どうしてかなぁって思って。先輩を心配してるだけですよ。」

カナトはニヤニヤ笑っていた。

ほんと、くっだらない後輩。

「そんなこと聞く暇があったら、こないだ頼んだ資料、さっさと作ってちょうだい。」

厳しい口調で言ってやった。

少し言い過ぎたかなとすぐに後悔するけど、当の本人はなんら気にする様子もなく、

「はいはーい。」

なんてふざけた返事をしてようやく前を向いた。

前を向いたからと言って、仕事に向かうわけでもなく、大きな伸びをしてあくびをしやがった。

この世代、理解できないわ。

そりゃ、一回りほど年も違うわけで、理解しようったってできるはずもない。

なんでこんな子、採用したのかしら。

人事部を恨むわ。私なら絶対採用しないもん。

まだカイトの方が100倍ましだわ。一緒に仕事をするっていう点においては、だけど。

机に両手を置いて、体を支えてゆっくりと立った。

座ってる姿勢から立つときが一番辛い。

そして、片手で腰を押さえながら、コピー機へ向かう。

コピー機に体を少し預けながら、大量のコピーを開始した。

意外と、この姿勢が楽だったりする。

「よっ。」

カイトが廊下の向こうから歩いてきた。

社内で会うのは珍しい。

カイトは大抵営業周りで外に出てることが多いから。

「おつかれ。こないだはありがとね。」

「どう?腰の調子は。」

「まぁまぁ。随分よくなってると思うわ。」

「ならよかったじゃん。」

「お陰様で。」

カイトは私の横に並んで立つ。何?

きっと何か言いたいんだろね。ほんと分かりやすい人間だわ。

「お前、今日は空いてる?」

「今日は無理。早退して整形外科に行く予定になってる。」

「そっか。」

「何?」

「今日さ、シュンキと飲む約束してて。よかったらお前もどうかなと思ってさ。」

気が利くねぇ。

それが言いたかったんだ。

カイトの誘った理由に不思議とがっかりしてる自分がいた。

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