ドラマ好きの何が悪い
心の中で「ごめん」と謝る。

電車を降り、足早で家路に向かう。

玄関の鍵を開けるのすらもどかしい。

何かから逃げているような錯覚にとらわれる。

ようやく玄関を開けて中に入った。

玄関の扉がバタンと勢いよく締まる。

扉にもたれたまま、しばらく動けなかった。

そのまましゃがみ込んで泣いた。

久しぶりにたくさんの涙が溢れて止まらなかった。

体中の水分が涙で奪われそうな勢いだ。

ナオトが天国に逝っちゃった時ですら、こんなにも涙は出なかったような気がする。

ひとしきり玄関で泣いて、ふらふらとリビングにたどり着く。

ソファーに全体重をもたれさせた。

テレビをつけて、気分転換に録画しているドラマを再生した。

随分観るのを忘れていたドラマだった。

既に5話くらいたまっている。

ぼんやりとドラマの登場人物が楽しげに動いているのを観る。

くだらない。

くだらない、くだらない。

全く面白くないんだから。

現実は、ドラマみたいにはいかない。

所詮ドラマだけの世界よ。

どうして、こんなのが面白いと思ってたのかしら。

自分でもわからなくなっていた。

涙でカピカピになった頬をハンカチでぬぐう。

余計痛いっての。

ハンカチをテレビに向かって投げつけた。

ドラマの主人公が白い歯を見せてとびきりの笑顔を見せていた。

「ばっかじゃない!」

画面に向かって叫ぶ。

ばかなのは、私だわ。

まるで皆に踊らされたピエロ状態。

そんなにも私、皆に馬鹿にされるような人間?

恨まれるようなことした?

また鼻の奥がつーんとしてきた。
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