鬼常務の獲物は私!?
「なにをしている。早く入れ」と、奥の方から神永常務の命令が聞こえた。
高山さんは無言で私を中へと入れてくれて、「失礼します」と私は入口近くで頭を下げる。
神永常務は黒い革張りの椅子に座り、机に向かってノートパソコンのキーボードに指を走らせていた。
その視線が画面から私に向けられると……常務の目が見開かれ、高山さんと同じように驚きの表情に変化した。
「日菜子、なにがあった⁉︎」
「え……?」
問われている意味が分からない。なにをそんなに驚いているのだろうと、私は目を瞬かせた。
すると隣に立つ高山さんが「こちらへどうぞ」と、私を姿見の前に連れて行く。
ドア横の壁に備え付けられている鏡に全身を映して、思わず私は「あっ」と声を上げた。
ひどい有様になっているんだけど……。
なぜか持ってきてしまった紙袋は大きく裂け、事務員の制服のベストは前ボタンがふたつ取れてなくなっている。
出勤前に綺麗に結い上げてきた髪は大きく崩れ、さらにはストッキングも破れて、両膝と額にうっすらと血がにじんでいた。