鬼常務の獲物は私!?

しかしベッドの上に逃げ場はなく、毛布を抱きしめることで、精一杯の防御をする。

彼は足を組み替え、腕組みをし、椅子に踏ん反り返りながら、怯える私を更に言葉で追い詰める。


「聞こえないのか?
理由を言えと言ってるだろう」

「え、ええと……その……」


怖いから。たったひと言で済む理由でも、面と向かって言うのも怖くて、返事に困るばかり。

すると常務がフンと鼻を鳴らし、勝手な推測を口にする。


「他に男がいるから、俺とは付き合えないということか」

「へ……?」


思いもしないことを言われて、目を丸くしてしまう。

二十七年彼氏がいないというのに、どうしたらそんな発想が?


私の側に居てくれる男性といったら、猫の太郎くんだけ。

太郎くんとは相思相愛で、毎日じゃれ合ってモフモフしているけれど。

ああ、お家に帰りたいな……。

太郎くんを思い出して、そんな気持ちになってしまった。


今頃、太郎くんはどうしているだろう?

お気に入りの猫ベッドで夕寝の最中か、それともおもちゃでひとり遊びをしているか。

昨日は観葉植物の鉢をひっくり返されて大変だったけど、今日はいい子にしているかな……。


こんな状況でも、太郎くんのことを考えた途端に頰が緩んでしまった。

すると、常務の目つきが鋭さを増してしまう。


「いるんだな、男が。
さっさとそいつと別れろ」

「ええっ!? そんなの無理です!
私がいないと太郎くんは、ご飯を食べられないし、住む場所だってなくなってしまいます」

「衣食住の面倒をお前が見てるのか。
それなら、なおのこと別れろ。くだらん男に引っかかるな」

「太郎くんは立派なオスです!
くだらなくありません!」


自分のことについては、いくら悪く言われても怒ったりしない。

納得して、ただ凹むだけだ。

でも、太郎くんに関しては黙っていられず、言い返してしまった。


家に帰ったとき、かわいらしい鳴き声で私を迎えてくれると、仕事の疲れもたちまち吹っ飛ぶ。

甘える姿も、ときどきツンとすましてそっぽを向いてしまう姿も、全てが愛しい。

今私が一番愛しているのは、間違いなく太郎くんで、かけがえのない大切な存在なのだ。

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