鬼常務の獲物は私!?

「日菜からはいつもお菓子の匂いしかしない。これって問題だと思わない?」

「問題って、なんの?」

「色気の。大人の女性としては、接近したときに、ふわりと香水の香りが漂うべきだと思う」


うちの会社は香水NGだけど、微かに香る程度なら注意されない。

星乃ちゃんも他の女性社員も、付けている人の割合が多い気がする。

それでも私は、お菓子の美味しそうな匂いの方が断然好み。

色気が足りないのは認めるけれど、たとえ香水を付けたからといって、こんな私がイイ女になれるはずないし……。

同意できずに曖昧に笑ってはぐらかそうとしていたら、彼女の視線が私の顔から体へ流された。


「少し太った?」

「うっ……ちょっとだけ……」


百五十八センチ、五十キロの私は太ってはいないと思うけれど、痩せてもいないし、太りやすい体質なので気をつけないといけない。

でも、お菓子の誘惑に勝つのも難しい。

もうすぐクリスマスというこの時期は特に、街に限定スイーツが溢れていて、食べて!と誘惑してくるからついつい、ね……。


「折角かわいい顔して生まれてきたのに、宝の持ち腐れ。日菜は絶対的に色気が不足している。そろそろ危機感を持つべきでしょう」


星乃ちゃんはよく私の容姿を褒めてくれる。

「パッチリ二重の大きな目、小ぶりな鼻と若干ぽってりした愛らしい唇。全体的に癒し系要素を兼ね備えた無防備なかわいらしさが……」

と、今も恥ずかしくなるほどの褒めようだ。


私としては星乃ちゃんの方こそ羨ましい。

切れ長二重のキリッとした顔立ちで、ミステリアスな雰囲気もある、営業部一の美人だと思う。

そんな彼女に手放しで褒められるのは嬉しいことだけど、いい意味で褒められた訳じゃないのは分かっているつもり。

宝の持ち腐れだと厳しいことを言われてしまい、チクリと胸に刺さりつつも、「うんうん」と聞き流して仕事の続きに戻った。

すると、彼女に溜息をつかれてしまう。


「そんなんじゃ、訪れるはずの恋も逃げていく。日菜はたしか、今年中に彼氏ができる予定だったよね?」

「それは、星乃ちゃんの占い結果がそうだっただけで……」


彼女には少々変わった特技がある。

タロット、手相、四柱推命、頼めばなんでも占ってくれる。

それがよく当たるともっぱらの評判で、彼女のブログの無料星占いはアクセスランキングに載るほどだったりする。

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