鬼常務の獲物は私!?



「早く返事をしろ。これでも緊張しているんだ。嫌だとは言わせないがな」


真顔でジッと見つめる彼に、コクコクと首を縦に振って何度も頷いた。

言葉で返事ができなかったのは、感極まって涙が溢れ、喋ることができなくなってしまったから。

胸に熱いものが込み上げて、口から嗚咽が漏れてしまう。

くしゃくしゃな顔を見られたくなくて、両手で隠して泣いていた。

すると席を立った彼が、私の横に来る。

顔を覆っていた手は外され、涙でぼやけた視界に映るのは、優しく微笑むハンサムな顔と、なにかを摘んだ彼の指。

なにを持っているのだろう……。涙を拭こうとして持ち上げた左手は宙で捕まえられてしまう。

その左手の薬指にスルリと嵌められた物は……指輪だった。


「婚約指輪……ですか?」

「そうだ。お前の全てを俺のものにするという約束の指輪だな。よく似合っている」


両目をゴシゴシ拭いて左手をよく見ると、美しくカットされた大粒ダイヤが、朝の光を浴びて輝いていた。

私なんかのために、こんな立派な指輪を……。

「一生、大切にします」と言ったつもりなのだが、泣きすぎて「なにを言っているのか分からないぞ」と笑われてしまう。

白いワイシャツの胸もとに顔を押し当てられ、ギュッと強く抱きしめられた。


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