Christmas Rose
その夜、夕食を済ませると父の部屋へ向かった。

「…父上、アリスです。」


部屋に入って、アリスは驚いた。


父の隣にはもう何ヶ月顔も顔を合わせていない、母の姿があった。


アリスの表情が曇った。

「…ご用件は。」


相変わらず、母はアリスと目を合わせようとはしない。


「…お前には、幼い頃よりこの国の王になるべく、厳しい教育をしてきた。その甲斐あって、剣の腕でお前の右に出る者は、この国にはいなかろう。」


「王として、この国を治める者としては当然の事です。」


わざわざ私を呼び出し、母上まで同席させて、一体なんの話をしたいのだろう…



父はアリスの言葉に立ち上がり、窓から外を眺めた。



「…もう、その必要はないんだ。」


「……どういう意味でしょうか。」


「カイル国の第二王子、アレンとフィオナの婚姻が決まった。アレン王子には我が国の時期国王となって貰う。」


父の言葉に、アリスは一瞬時が止まったように感じた。


カイルの王子が、この国の王に。。



「…カイルの国王はこの事には反対していた。しかし、アレン王子の必死の説得の甲斐あって、今日知らせがあったのだ。」


いつからそんな話が…

姉上は、一言もそんな事を言っていなかった。

「お前には、随分と長い間重い荷を背負わせ辛い想いをさせてしまった。すまなかった。」


アリスは思わず立ち上がった。

「…私は辛いなどと今まで一度も思った事はありません!!王になる為に、剣術も勉学も、全てを費やしてきました!!」


「…もう決まった事です。」


母の冷たい言葉が静かに部屋に響いた。


「私が、女だから…ですか……」


アリスの言葉に父は視線を逸らした。


女だから……!



「アリス、お前には、ギルティ国の第一王子シド様の元へ嫁いでもらう事となった。」


ギルティの、シド王子……


父の言葉にアリスは目を見開いた。


「…ギルティはお前も知っての通りの大国。その国の時期国王であるシド王子の元へ嫁げば、我が国も安泰。お前も何不自由のない生活が送れる…」

バンっ!!!


父の言葉を遮るように、アリスは腰に刺していた剣を床に叩きつけた。



「…父上の言いたい事はよく分かりました。仰せのままに致しましょう。」


そして、さっきからまるで他人を見つめるような眼差しの母を鋭い瞳で睨みつけた。


アリスはそれ以上は何も言わず、王室を後にした。




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