大事なことは、二度も言わない
 


この人たちはみんな、これからどこへ行くんだろう。

やっぱり夜景の見える高級レストランでディナーかな。
その後はホテルでふたりきり、誰にも邪魔されずゆったり甘い時間を過ごしたり。

……そう、たとえば、


(ああいうとことかで)


雑踏の中をあてもなく進みながら、前方のひときわ目を引く建物をぼんやりと見上げる。
窓に無数の明かりが灯り、街中のクリスマスの賑わいに負けないくらい眩しい光を放ちながらそびえ立つそれは、この辺りのシンボルと言ってもいいくらいに有名なシティホテル。

いいなあ。憧れる。一度でいいから、あの一室で誰かとクリスマスの夜を過ごしてみたいものだ。



……そう思いませんか、そこの誰かさん。


さっきから黙って半歩後ろをついて来る高宮くんをちらりと振り返ると、思いの外しっかり彼と目が合ってしまった。

「……なに」

「いや……ああいうとこのレストランでクリスマスディナーとか食べてみたいよね、一回くらい」

「今からあそこ行くけど」

「え?」

「だから、今からあのホテルのレストランに飯食いに行くって」

「……え、はい?」


高宮くんの言っていることがよくわからず、ぴたりと足が止まる。その拍子に、すぐ横を歩いていた男の人と肩がぶつかってしまった。
慌てて謝る私の腕を、高宮くんがぐい、と強く引く。

「急に立ち止まったら危ない」

「ご、ごめん」

今度は高宮くんが前を歩き、その後を腕を引かれながら私がついて行くという形になった。行き先は……目の前のあのホテル、らしい。信じがたいけれど。

というか待って待って、ああいうところって予約してないと入れないよね?
これちゃんと予約してある? 入ったそばから追い出されたりしない? 大丈夫?

だってついさっき思いついたようにご飯に誘ってきたんだよこの人……!?


 
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