大事なことは、二度も言わない
 


彼――高宮くんとは、私の記憶が正しければまだちゃんとお付き合いはしていない。はずだけど、何かにつけこうして呼び出されることが多い。

まだ、なんていう含みのある言い方をするのは、はっきり言葉にされてはいないけれど、彼の言動の端々に垣間見えるというか……よほど鈍くない限りおおよそ察するものがあるからだ。

もちろん、嫌な気はしない。
だからこそ私もこうして呼び出しに応えるわけだけども。




「お待たせしやした!」

「思ったより早かったな」

「イブにタダ飯を食べれると聞いて森川さん超ダッシュで来たよ」

「……そんなこと一言も言ってないけど」


自宅から3駅。改札を出てすぐのコンコースにある左手前の柱は、私たちの「いつもの場所」。

先に待っていた高宮くんの元へ駆け寄りニッと笑ってみせると、彼はマフラーで口元を隠しながら少しだけ眼鏡の奥の目を細めた。
つっけんどんな物言いは、彼の精一杯の照れ隠しだと知っている。


「店もう決めてる?」

「んー……」

「どこがいいかなあ。どこももう混んでるよね……わ、」


コンコースを出てきょろきょろと見渡してみた中心街の街並みに、思わず声が出た。

オレンジや青のイルミネーションでライトアップされた夜の大通りも、立ち並ぶビルの煌びやかな外装も、まさにクリスマス一色。すごくきれい。
中心街の方には特別用がない限りあまり出向くことはないから、その中を行き交う恋人たちに紛れ込んで歩くのはなんだか妙にどきどきする。


 
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