大事なことは、二度も言わない
(……もう私から、言ってしまおうか)
運ばれてくる料理やお酒はどれも本当に美味しくて。
窓から見える一面の夜景は、ため息が出るほどきれいで。
でもそれ以上に、頭の中は目の前の彼のことでいっぱいだった。
こんなふうにイブを一緒に過ごせて嬉しい。でもまだ足りないものがある。
いつからだろう。ずっとずっと、私には待っているものがあるのだ。
「……高宮くんあのさ、」
「うん」
「この後もまだ一緒にいたいなーなんて……」
暗めの照明とお酒の力を借りた決死の一言。きっと私の顔は今、真っ赤になっているんだろう。
おそるおそる高宮くんの表情を伺うと、眼鏡の奥のいつもより大きくなった目と、また視線がぶつかった。
……と思ったらすぐに逸らされて、代わりに彼は小さく咳払いをする。
「……ホ、」
「ほ?」
「ホテルに一応部屋は取って……る」
「え!」
思わず私は身を乗り出した。
すごい、高宮くん用意周到すぎるよそれは……!
(……ああ、でも、そうか)
眼鏡の位置を直しながら顔を隠そうとする彼が無性に可愛らしく見えて、思わず頬がゆるんだ。
きっと、レストランも、ホテルの部屋も、ずっと前から彼なりに考えて予約してくれていたんだろう。
でも彼のことだから、気後れして私にはなかなか言い出せなくて。
当日になってやっと私を誘い出せたけれど、やっぱり、言い出せなくて。
だって、私も、高宮くんだって、わかりきっていること。
私たちはまだお互いに、大事なことを言えていないのだ。
「部屋行こっか、高宮くん」
……私今、柄にもなく緊張してる。
でも彼もそうなのだと思うと、意外と勇気が出るものだ。
席を立って手を伸ばせば、彼がそっと、その手を握ってくれた。