やさしい先輩の、意地悪な言葉
「お前もただの友だちだから。で、遥香、なに? なんか用事?」

「あ、いや……」

私は、さっき言いたかった言葉たちを飲み込んで。


「ケーキ、多めに買っておいたから、その子といっしょに食べてね!」

と、明るく答えた。


「うん。まあ最初からこいつといっしょに食うつもりだったけど」

「なになに? 元カノさんはどんなケーキ買ってきてくれたのー? 隆也、見せてー」

「わっ、バカ危ないだろ。急に箱引っ張んなよ。
じゃあな遥香。気をつけて帰れよ」


う、うん……と小さく返事をすると、隆也と女の子は今度こそ玄関のドアを完全に閉めた。



ドア越しに、女の子の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


……もしあの子が隆也の新しい彼女だったとしたら、その時は私は隆也のことを諦めることを考えなきゃいけない。彼女がいるのに隆也と会っていたら、彼女に悪いから。
でも、あの子は彼女じゃなく、友だちだと隆也は言っていた。
ただの友だちなら、私は隆也のことを諦めなくていいよね。いつか戻ってきてくれることを願いながら、隆也に『ありがとう』って言われることをなんでもする……そんな風に思ってしまって。



「帰ろ……」

小さく呟いて、私はアパートの階段を降り、駅へと向かった。




……駅までの道を歩きながら、思う。

恋愛において、私は大バカだ、という自覚はある。
恋愛のことに関してはほぼほぼ盲目であるけれど、それでも完全に自分が見えていないわけじゃない。

だからこそ、神崎さんに言われた『ダメ女』という言葉に、これだけ傷ついている。自覚がなければあんな言葉は否定すればいい。否定できないのは、認めているから。
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