やさしい先輩の、意地悪な言葉
う、うん……と、神崎さんはなおも難しそうな顔をしている、けど。


「……わ、私、神崎さんが酔って意地悪なこと言われても、その、平気ですし。
それに、せっかく秘密を共有したわけですから……二山さんの前だけじゃなくて、私の前でもお酒を飲んでいただけたら……と思い」

「そんな。俺に気を遣わなくていいんだよ」

「ちっ、違うんです! 気を遣ってるとかではなく……!」

もう少し意地悪を言われたいんです……とか、そんなことは言えないけど……。


ヤバい、私、下心見え見えだったかな……と心配に思ったけど。



「……ほんとに、いいの?」



……お?


「はいっ! もちろんですっ!」

「じゃあ、ちょっとだけいいかな、ほんとにちょっとだけ」

「はいっ!」

よかった! 神崎さんも、ちょっとうれしそうだ。
下心はなくはなかったけど……神崎さんがうれしそうにしてくれることも、もちろん純粋にうれしい。


「じゃ、じゃあ行きましょう! 駅の方に飲み屋さんいっぱいありますよね!」

「うん。もう空いてるかな。まあ、ほんとに少ししか飲まないから、さすがに今日は変なことは言わないと思う」

そんな風に笑う神崎さんととなり同士歩き、駅の方へと向かう。

私はお酒は嫌いじゃない。飲みすぎることはないけど、お酒が入ると普段よりは気楽に人と話せるようになるから。

神崎さんとも、お酒の力を借りてもう少し距離を縮められるかもしれない、とも思った。
< 77 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop