強気な彼から逃げられません




寂しい気持ちを抱えたまま、普段通りを心がけて受付の仕事をしていると、どこか見覚えのある顔が私を見つめていた。

「いらっしゃいませ。今日はお約束でしょうか?」

受付にふさわしい笑顔を作るけれど、相変わらず私をじっと見ている瞳に、違和感を覚えた。

「法務部の新海部長と約束をしています。御社の担当をさせてもらっている天羽の代わりに今日は伺いました」

「わかりました……少々お待ち下さい……え? あ、天羽?」

天羽と聞いて、はっと思い出したのは、他の誰でもない、怜さんだ。

今日から三日間、出張で北海道に行くと言っていた。

昨日、突然決まった出張のせいで、抱えていた業務を幾つか振り分けなくてはならなくて大変だったとため息交じりに笑っていた。

怜さんと付き合い始めてから、ほぼ毎日怜さんの部屋で生活しているせいか、三日間という短い期間でも離れて過ごす事がとても寂しい。

怜さんの胸に抱かれて眠る夜に慣れてしまうと、その温かさがなければ夜明けがこないような気がして。

今晩からの三日間、ちゃんと眠れるだろうか、そしてちゃんと一人で過ごせるだろうかと不安でいっぱいだ。

「ありがたくも怜に仕事を振り分けられた、篠田です。お久しぶり」

「お、お久しぶり?」

にやりと笑った目の前のお客様、篠田さんは、私に親しげな視線を向けてくすくすと笑った。


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