強気な彼から逃げられません
「怜が突然かっさらって、自分のものにしてしまったあの夜以来だね」
「かっさらって……って、あ、もしかして、タクシーに一緒に乗っていた、愁さん」
「大正解。篠田愁です。 今日は怜の代わりに新海部長に会いに来たんだけど、本当の目的は違うんだ。 怜が大切にしてる芹花ちゃんを見に来た」
「え?」
「怜が長い間ずっと欲しがっていた芹花ちゃん。どう? いよいよ、怜の事、好きになってくれた?」
「あ、……はい。それはもちろん……あ、いえ、その……」
「くくっ焦らなくていいから。怜があれだけ本気を出してものにしようとしてる姿を見られただけで得してる気分なのに、芹花ちゃんみたいな綺麗な子が焦ってる顔まで見せてくれて。
今日の俺は、ラッキーだよ」
「あ、いえ、そんな……」
愁さんは、焦る私を目を細めて優しく見つめた。
「怜、いい男だろ? 大事にしてやってよ。きっと芹花ちゃんに気持ちぶつけ過ぎて重く感じるだろうけど、な」
本当に怜さんの事を大切に思っているんだろう言葉を聞かされて、私の気持ちもほっと温かくなった。
初めて会った時にはゆっくりと話す機会はなかったけれど、今こうして温かく笑う瞳を向けられると怜さんの友達だということは関係なく、いい人なんだろうと思う。
ほっとしてしまったのか、思わず私も素直な言葉を口にしてしまう。
「私の方が、きっと怜さんの事を縛ってしまうかもしれないし……嫌われないように気を付けています」
「気を付けるって……そんな必要ないのに」
「でも、今までは……」
思わずその先を続けようとした私に、隣で様子をうかがっていた志菜子ちゃんが
「新海部長に、おつなぎしなくて大丈夫ですか?」
心配そうな声で囁いた。
「あ、そうだ。すみません。今すぐに連絡いたしますので、あちらでお待ちいただけますか?」
「ああ、お願いします。新海部長には、僕が代理で伺う事を予め伝えてあるから。……芹花ちゃんとも、また、ゆっくり、ね。
あ、怜が妬くからあいつももちろんいっしょに」
意味ありげににやりと笑って、愁さんはロビーの中央のソファへ足を向けた。
仕立てのいいスーツを着た長身の後姿は見栄えよく、正面の胸元に輝いていた弁護士バッジ。
もてるだろうなあ、と思いながら、新海部長へ連絡をとった。