優しい闇
ー戻りなさいー


静音は浜辺に横になっていると不意に声が聞こえた。


「誰?」


体を起こしながら周りを見ても誰もいない。


あるのは穏やかな海と昼間なのに輝いてる満月だけ。


ー戻りなさいー


「どこにいるの?戻るってどこに?私はここにいたいの」


誰もいないのに頭に聞こえてくる声に返事をした。


ゴゴゴゴー


何の音?


「えっ?!」


輝いていた満月は割れだし、真っ青な青空は真っ黒な渦の中に吸い込まれていく。


穏やかだった波はいつの間にか荒波になり、四方八方から高波が静音に押し寄せてきた。


「いっ、いや!」


逃げるにも逃げる場所が無い為、その場にうずくまり襲ってくる波を見つめるしかなかった。


「生きたい…ごめんなさい…私…生きて…い、た…い」


意識を手放す前に見えたのは最後に見た彼の顔だった。
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